風前の灯火

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 パソコン画面に映る、無機質なプログラム言語。  ひたすら、プログラムを打ち込んでいる自分。  会社に泊まり込んで、五日め。  ゲームソフトウェア制作会社の、チーフプログラマー。今年で四十五歳。未婚。彼女なし。それが、自分『竹松泰文』。  父親は肺ガンで、十二年前に死去。母親と二人暮らしをしていたが、その母親も五年前に寝たきりになり、現在は介護施設に預けている状態。  兄弟のいない自分にとっての、唯一の身内が母である。できれば自宅介護をしたいところだが、会社に何日も泊まり込む自分が、親の介護など現実的には無理な話。  その母も、痴呆と衰弱が進み、ついに病院へと移された。  仕事は追い込みの最中。納期が遅れれば、会社の信用は落ち込み、甚大な被害を被る。  母のことは気になるが、そうは休めない。  今日は定時に帰らせてもらう。自宅に帰ってから少し休んで、病院に向かう。  これ以上の親不孝はしたくない。
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