風前の灯火

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 とにかく、若いころは、後先考えずに夢中で仕事した。ちょっとしたアイデアなら、それをゲームに採用もしてくれた。  現在の会社にはない、そういう手作り感が、あのころにはあった。完全分業じゃなく、少数精鋭の職人が一丸となって、ひとつの作品を手掛ける。  簡単に言えば、玄人好み……マニア向け。ライトユーザーお断り。  得てして、そういうゲームが名作になりうる。  しかし、名作=売れるゲームという図式はない。  売れるゲームの要因は多様化していて、もはや作り手に主導権はない気もする。  それでも、ゲーム屋は売れるゲームを作らなければならない。利益のない会社はすぐに淘汰されてしまう。  もう、ゲームを作りたいという欲求も枯渇した。 カタギになってどうするか、何も考えていないが、いい加減、疲れた……。  ただ、忙しいだけの仕事。生きる屍のような、母親。直視したくない現実。  何もかも捨てて逃げ出したい。  でも、おそらく……逃げた先には何もない。  現実も消えてなくならない。
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