だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

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   昨日の昼からバイト。夜から朝までまたバイト。  疲れた俺に降りかかる非現実的な出来事には、正直戸惑っているというのが今の心境で。 「化けてみろよ」  だからと、見過ごすことが出来ないものと諦め始めている自分もいた。  まずは、何が真実なのかを見てみなくては。  見たところで、何だか益々気味が悪いだけだと知っているのに……俺は必死に現実を受け入れようと努めている。 「いいよ。あ、驚いて気絶しちゃったら、ベッドに運んであげるね」  言いながら、猫が立ち上がってテーブルから降りた。  緩やかな動きでテレビの前のスペースに移動すれば、また座る。  俺は、目を逸らしたい気持ちに抗いながらジッとその猫の姿を見ていた。 「見ててね。へんしーん!!」  ポッという音がした。  煙なんかも無い中で、一瞬にしてそこに人が現れた。  急に現れた人間は、裸で俺に満面の笑みを向け座っていたのを覚えている。  腰までありそうなグレーの長い髪。  金色の大きな瞳。  やけに白い肌。  筋肉質で引き締まった細めの体。  男という性別と、少し大人っぽい顔から二十代半ばから後半くらいに見えたのを覚えている。  ただ、俺はそれでキャパオーバーだった。  意識が、それを現実だと認めたくなかったのだろう。  姿を確認して、 「ね、人間に化けれたデショ?」  と、爽やかな美形の男に言われた後から記憶がない。  信じられない現実を受け入れるには、あまりにも不可思議で気味が悪かったせいだ。  
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