だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

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   次に俺の脳が覚醒したのは、夕方。  なんだか、すげー暑い。  暑くて、布団を蹴り飛ばす。  更に、横へと傾けた体のまま手が捉えている何かの感触に、ボーッとする脳内ながらにアレ? と思った。 「…………」  うっすらと瞼を押し上げた目で、その正体を確かめる。  あ。  あー。  誰だコイツ……。  俺の視界に映ったのは、俺の掌を枕に寝ている人の姿で。  落とされた瞼、鼻が少し小さめではあるが、なんだか綺麗な寝顔をした奴だと何気なく思った。 「…………」  誰だコイツ……?  次第に意識がハッキリしてくる俺は、それでも目の前の奴が誰か分からない。  視線を顔から下へと下ろすと……男だということが判明する肩幅が見えた。  同時に目の前の奴が裸であることに気づく。  途端に、 「え……うわっ」  五臓六腑が震え、枕にされていた手を抜き退いた。  男の体を見たくない気持ちではありながら視線を更に下げてみれば……男でした。ちゃんと、男でした。  象徴がついてました。  俺っ! なにやらかしたんだっ!?  驚き飛び起き上体を起こした俺は、ソイツの周りを見渡した。  部屋だ。俺の部屋だ!  よもや、俺は男に連れ込まれたホテルかと思ってしまったことを、ここに白状しよう。  一大事だ。  俺の部屋の俺のベッドに、俺の横で寝ている裸の男……ゾッとするどころじゃあない。  ハッとして、自分を見れば……  は、だ、か。 「……おいおいおいおい……嘘だろ?」  自分の裸に、背筋が凍る。  思い出せ俺。  何があった?  なんでこんなことになった!? 「あー、おはよう、鮫島徹クン」  起き上がった俺の背後から、男の声。  鮫島 徹(さめしまとおる)というのは、俺の名前で……呼ばれてしまえば振り返るしかない。  ギギギと、動きづらい首を無理に動かした。 「…………っ!?」  あ。  あー!  アアアアアア!!  夢じゃ無かったのかよおおおおお!  そこには、金の瞳があって。  その瞳には、確かに覚えがあって。  俺は「はっ、はは」とひきつる頬を無理に笑ませた。 「猫……だよな?」  思い出したくないものを、思い出した瞬間だ。  
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