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「家賃というよりさ、この部屋はボクのために作られたんだ」
「は?」
何やら、ワンコは部屋を見渡し首を肩を竦める。
ワンコのために作られた部屋なんて大層なことを言うけど、賃貸物件として貸し出されていた以上、そんな話を信じるわけもない。
相手は、妖怪、化け猫だ。
「もう、面影も無くなっちゃったね」
「なんの話だよ」
声のトーンを落としたワンコは、ゆっくり瞬きをしながら俺を見る。
金の瞳が、真っ直ぐに俺を捉えていて……本題を切り出すことに躊躇が生まれてしまった。
聞いてほしそうな、そんな表情に……俺としたことが、のまれてしまったらしい。
「鮫島徹くんが引っ越してくる前。元々は、大家のお爺ちゃんが住んでて……ボクと、二人で暮らしてたんだぁ」
「…………」
ヘビーな話だろう、って俺の脳内が弾き出す。
何故なら、この部屋は貸しに出されていたんだから。
「大家のお爺ちゃんはね、元々お婆ちゃんとボロボロの一軒家に住んでて……その頃にボクと出会ったんだよ」
思い出を語りだしたワンコは、クスリと笑いを溢す。
思い出に触れたみたいに。
「ボクが人に化けた時にさ、お婆ちゃんは割りと平然としてて、お爺ちゃんの方が腰を抜かしちゃってさぁ」
笑うワンコに、俺の眉が寄る。
腰を抜かした爺さんと同じように、俺もいつかそう語られてしまうんだろう。
情けねぇ~。
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