だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

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   俺は、ゾッとすることもなく部屋にいた猫を見ていた。  長毛のグレーの毛は、滑らかな光沢を感じさせ、金色の瞳も俺を見ている。  アルバイトで生活をしている俺の一日の終わりは、朝にやってくるわけで。  太陽の光が部屋に射し込み、少しばかり眩しい。  俺は今日、このまま寝れないことを理解した。  何故なら、俺は猫なんてものを飼っていない。  なのに、俺の部屋に見知らぬ猫がいるんだから……これは、不法侵入されたんだと理解に容易い。  施錠してあった玄関。  窓の鍵は空いていたが、それでもここは五階で、道路に面したベランダの窓から猫が入れるはずはない。  しかも、五階は最上階でこの部屋しか存在しないから、隣の部屋から来た可能性も無い。  つまり、居るはずのない猫が独りでに部屋に入るなんてことは有り得なくて。誰かが連れてこなければ、入ることがまず、不可能だ。  じゃあ、誰かが侵入して猫を置いて行った?  その可能性は否定できない。  だから、俺は寝室、トイレ、脱衣場に風呂場、クローゼットに、もしかすると誰かが潜んでいるかもしれないと、滞りなくチェックした。  だが……誰も、いなかった。  結果として、猫はいなかったのではないか。  俺は疲れて幻を見たのではないかと思い、ダイニングに戻ったは良いが……ソファとテレビの間。  そこにあるテーブルの上に座る猫は確かにいる。  不法侵入されたあげく、猫を置いていかれた。  その可能性しか、やはり無い……。  バイト帰りで寝たいけど、警察に電話、大家に連絡して鍵も変えてもらおう。  不法侵入された部屋で、おちおち寝る根性はさすがに無い。  俺は、俺から逃げも隠れもしない猫がいるテーブルの前に座った。  そして、今。見つめあっている状況だ。  首輪がない。  綺麗な毛並みの猫は、体が大きく成猫だろう。  金色の瞳が、まじまじと俺を見ていて、クァと大きく口を開いて欠伸を溢し始めたから……猫のマイペースさがよくよく伝わってくる。  
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