だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

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   誰だお前は。  胸の中に落とす声は、口に出なかった。  猫に話しかけたところで、と思うだけでなく、俺は特に猫が好きなわけでもない。  可愛いと思って触るような、動物好きでも無いから、ただ見つめるばかりだ。  と、また猫が口を開いた。 「んー、なーんか部屋間違えたかと思ったけど……もしかして、新しい住人?」 「…………」  俺は、疲れてるんだろう。  それか、耳に垢が溜まってるのかも。  耳に小指を突っ込み、ボリボリと中をほじくる。  口を開いたかと思えば、喋るなんて猫を見聞きするなんて……現実的じゃあない。  これは、俺の幻聴に幻覚だ。  やけに明るい声が聞こえたなんて、ましてや、事も無げに問われる幻を体験するとは……俺は相当疲れてる。  一週間前に越して来たこの部屋に不慣れで、疲れが自覚出来ていなかったんだろう。  引っこ抜いた小指。  俺は、猫の金色の瞳を見ながら言ってみる。 「……今、喋ったか?」  我ながら、馬鹿げた問いだ。  猫に話しかけたところで、返事が無いのは分かってるのに、話しかける俺は馬鹿……、 「喋ったけど? なに? もしかして、猫が喋らないなんて思ってたパターン?」 「…………」  では、無かった。  口をパクパクさせて、猫が……喋っている……だと!? 「やっぱりそのパターンか。よくあるパターンだしね。 “フリーズなう”なとこ悪いんだけど、ボクは喋る猫。現実だからね?」 「…………」  猫の口から置かれてく言葉が、やけに今時なのは気にならない。  それよりも……、 「な、なんで……喋ってんだよ……」  俺は、ゾッとするほど気味悪いと思う気持ちが込み上げていた。  
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