だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

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  「なんで、って言われても……もうボクの正体を明かすなんて。勿体ぶらせてほしいなぁ。 あー、でも。今までのパターンからするなら、言わなきゃ卒倒されちゃうかもしれないし……」 「…………」  早口で紡がれる日本語。  首を傾げながら、ソイツは視線を下げたが再び俺を見た。 「百五十年。ボクね、百五十年以上生きてるんだぁ。分かる? 所謂、人間の言葉にするなら、“妖怪”の類いになるね。 君たちの知る猫なら、長くても二十年近くしか生きられないところなんだけど……ボクはそうじゃない。 偉大で不思議な猫だよ」 「…………俺、疲れてる……」  言われた言葉が、頭に入らない。  心臓の鼓動は、やたら早くなっていて、断片的にしか頭に入ってない。  ましてや、猫がドヤッと言いたげな顔をしているように見えるなんて……重症だ。  うん。これは、幻。  やっぱり、俺は相当疲れてる。  妖怪なんて、非現実的すぎて、有り得ると思えない。  ここで、人が取り憑いてるとかなら……いや、それも非現実的だな。霊感あるわけでもないし、そういう類いも信じようと思えない。 「あー、早速、現実逃避のパターンかー。 まあ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。ボクは稀な存在だし」  まだ喋ってるよ。  いや、もう理解した。  これが、幻だってことは理解した。  俺は、猫に手を伸ばした。  ゆっくり、慎重に……。 「もう良いって、これはアレだろ? 俺の幻。 お前自体がいるはずのない猫……」  そこに本当はいないものだと思いたくて、逃げもしない猫に伸ばした手。  触れれないことに期待を込めた。 「触れるのかよ……」  だが、触れてしまう現実。  頭にソッと触れると、滑らかでサラサラの毛が指に感じられてしまう現実。 「頭は、あんまり撫でられたくないんだけど……ここにちゃんと喋る猫がいるって、確認できた?」 「…………勘弁してくれ」  気味悪い。  瞬きをする猫の頭に置いた手。その指先に感じる毛並みと暖かさ。  現実に、起こっていると……胸の内の八割が確信してしまっている。  幻を見るようなことさえ、本来は信じれないタイプの俺は……元々、これが現実だと思いたく無かっただけだった。  
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