だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

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   ハァ、と口から盛大な息を吐き出した。  猫の頭から手を離し、俺は両手で顔を覆う。  喋る猫。妖怪。不法侵入。  さて、何から片付けていこうか。 「君、触ったんだから、少しはボクの存在を認める気になった?」 「…………」 「まあ、認めるも認めないも、この際どっちでも良いや。 大事なのは、この部屋がボクの部屋だということ。 だから、とりあえず君は居候だよ? そこんとこをちゃんと決めておか……」 「待てまて。今、サラッと何か言ったな?」  聞き逃せない言葉に、俺から低い声が出た。  顔を覆う手を離して、俺は猫に向き直る。 「何かって?」  首を傾げる猫の見た感じは可愛い。  これが、喋らない猫なら……たぶん、可愛いと思えたかもしれない。 「俺が、居候つったか?」 「そうだよ。だって、ここはボクの部屋。君が引っ越して来る前から、ボクの縄張りだ」 「…………」  くそ面倒くせぇ。  縄張りってなんだ?  縄張りってのは、なんだ?  俺が来る前から、ここに住んでたって? 「とりあえず、大家に電話だな。警察にするか。 つーか、俺の部屋に勝手に入ったのはお前だな?」 「だから、ボクの部屋だってば。君と違って、ボクはベランダが玄関だし」 「…………ここ、五階だけど」 「ただの猫じゃないしねー」 「…………」  ベランダから入りやがったか。  そこの窓は空いてたしな。 「分かった。とりあえず、お前がただの猫じゃないのは理解してやる。 勝手に部屋に入ったことも、信じてやる。 あとの話は、警察でしようか」  眉を寄せた俺は、低い声で猫に言った。  自分を稀と言う猫に、微塵も興味がない。  これが警察に行っても喋るなら、あとは警察に任せておけば良い。  面倒ごとは、他所でやってくれ。  
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