だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

6/10

871人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
   猫は、後ろ足で耳を掻いた。  どことなく、楽しそうに見える。猫の顔なのに、だ。 「警察……か。そこでボクが喋らなかったら、君、頭のオカシイ人になっちゃうね。御愁傷様」 「…………」  警察に連れてく。その場合の俺のデメリットを早々に口にしてくれた猫に、俺は返す言葉がない。  二十二歳、フリーター。  就活をしている俺にとって、それはそれは痛手だ。  猫が不法侵入してきて、更に喋りだしました。  そんなことを言う奴を、警察は取り合ってくれるだろうか?  変な奴だと訝しげな視線とともに、変人のレッテルを貼るに決まってる。  実際、そこで猫が喋るなら……信じてくれそうなものだけど。  コイツは、それも見越してるからこんなことを言うんだろう。 「さーて、本題。君は、これからどうする? 警察にボクを連れてく?」  楽しげに、猫が言う。  俺は、まったく楽しくない。 「それとも、諦めて引っ越し?」 「…………」  一週間前に、引っ越してきたばかりの俺の引っ越し。  それは、確かに有効なものだろう。 「色々とやりようはあるね。 その中に、ボクとの共同生活ってのもあるよ?」 「…………ない」  即答とはいかなかった。  それは、今日という日が既にそうせざるを得ない気がしていたからだ。  現に、ここにいるのは猫。  気味が悪いから友達の家に行く。  その選択肢もあるが……縄張りなんて主張されてんだから、意地でもここで寝てやる気しかしない。  俺が貯めた金で借りてる部屋。俺が、金を出した部屋なんだ。  退くとこじゃあない。 「じゃあ、どうする?」  また首を傾げるこの猫は、ワクワクといった感じの明るい声を俺に向けていて。  俺は、頭が痛くなってきた気がしながら口を開いた。 「……寝る」  夢オチに、期待したい。  
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

871人が本棚に入れています
本棚に追加