だいたい、そういう胡散臭いものは幻だと思いたいものだ

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   自分の目で見たこと。それは、真実だといつだって思う。  だが、それを真実だと思いたくない時は沢山あって……。  例えば、就活で面接に漕ぎ着けた会社の不採用通知を見た時。  例えば、親が大学を中退して未だフリーターの俺に心配そうな目を向けた時。  現実に、この目で見たことから目を逸らしたい時はあるものだ。  それでも、きっと、今ほどじゃあない。 「寝る? ああ、これが寝て起きたら無かったことになってるかも、とか考えちゃったパターンかなぁ?」 「…………」  俺の思考を読み取ったように言われてしまえば、益々これが現実に思えてならない。  夢オチの期待が折られた時を考えれば、それはそれでキツい気もしてきたな……。 「……ちょっと、話をしようか、猫」 「話しなら、もうしてるよ?」 「…………お前は、妖怪か?」  揚げ足を取られたのを無視して、俺は猫に確認する。 「うーん。ボクとしては、妖怪って扱いはイヤなんだけどねぇ。でも、そういうことになるかな。 百五十年以上も生きる猫。しかも喋れて、運動神経なんて人間には及べないものだし」  妖怪というと、化け物のようなイメージだ。  目の前の猫が化け物かと問われたら……肯定し難い。  喋ること以外は、普通の猫とかわりないから尚更。  それでも、コイツの言うことが正しいなら、妖怪の分類になるのだと思う。  喋れて、尚且つ五階の部屋にベランダから入ってきたらしいし。 「あー……あとね。ボク、人に化けれるよ」 「…………」  猫の顔なのに、嬉しそうに言われた気がする。  いや、その前に……、 「……もっかい言ってくれ」  また非現実的な言葉が聞こえなかったか? 「だから、ボクね……人に化けれるよ。 そう聞いたら、妖怪だって思うデショ?」 「…………」  ……化け猫なのか。  
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