第1章

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 小学5年生になった僕は、赤い着物の女の子に会ったよ。  席替えがあって、僕は教室の窓側の一番後ろの席を得た。 実際は一番前の席に、くじ引きで当たったのだけれど、 眼鏡を作り直すまでは、遠い席だと黒板が見え難いという 子と席を交換した結果で、この【特等席】を手に入れたのさ。  教室では一番良い席なのだ。僕は5年生になってからの、 この一年間を、出来る限り忘れないようにしたいって思う。  その女の子はもう桜が散ってしまうような、春は新芽の頃 唐突に僕の前(正しくは左横)に、やって来たんだ。 ハッキリは憶えていないけれど、確か算数だった気がする。 一時間目が算数っていうのは、あまり良くない事さ。  だってそうじゃないか。  誰だって眠いのを堪えて、ボンヤリしながら考えるのは 昨日や今朝のテレビの事とか、今日の体育や運動の事とか。 とにかく、そういった理数的じゃない事でボンヤリする。 つまりは適した時間なのさ。  そうじゃなければ、ハキハキと計算したり、目の前の、 パズルを解くのが、相応しく適している時間の立場っていう そういう時間への冒涜になるのさ。何せ一時間目ってのは 朝ご飯の後で、更に登校の後で、更に更に眠いって事だよ。 『フハハハハ!』  そんな風に笑うんだ。いや笑ったんだよ。僕の窓際に 首を持たれかけて、赤い着物を着ていて頬杖をしている。 可愛い女の子だなって、思ったんだ。美人ではないけれど やたらに可愛いって。それが始まりだったんだ。  よく考えたのは、その日の夜に宿題をしようと思った時。 彼女が窓の向こう側。つまりは学校の二階の窓の外ってこと。 でもね、空中だとかオバケだとか、そういう事はいいのさ。 赤い着物が似合う、可愛い女の子だったんだよ。素敵だよ。  で、初めて会った時には、まだ算数の授業中だったろ? 変な声出して先生に、睨まれたら朝から縁起が悪いよ。 だから、何が可笑しいのさって小声で言ったんだよ。  カーテン越しに、風が吹く度に魅せる彼女の笑い方が、 やっぱり素敵だったんだけどね、それ以上に凄いんだけれど 僕が小声で訊ねると、赤い着物の可愛い娘は同じように 真似して小声で言うのさ。 『こんな朝早くから、数の計算なんて効率が悪いもの。』  ってきたものだ。僕はこの言葉に心底まいっちまって、 思わず(でも小声で。小声なのが秘密っぽくて良いんだ。)
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