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ミサちゃんと赤い着物と、窓辺さんとカーテンと風とキス。
それから5月が中頃になった頃、ミサちゃんは緑の着物で
やっぱり窓辺から、僕に話しかけてくれた。窓辺さんって
そんな名前なのでも、気に入ってくれていたんだ。
だから、ミサちゃんより、窓辺って呼んでって。
僕は、仲良くなったのなら名前で呼ぼうって言ったけど。
ミサちゃんは、僕がつけた窓辺さんって呼ばれたいって。
大人っぽいっていうんだ。笑い方はフハハハだけどね。
もう、僕の5年生の思い出なんて【窓辺さん】で一杯だよ。
梅雨に入って、窓を全部あけちゃ駄目だと先生に言われて
それでも、この席は特別席だから、こっそり半分は開けて、
いつであっても、窓辺にミサちゃんを待っていた。
やっぱり、ミサちゃんって呼びたかったんだと思う。
そんな頃に来てくれた彼女は、青緑の大人っぽい着物で
まるで、お姉さんみたいで。どぎまぎして、ときめきして
僕はあまり顔が見れなくなっていて、でも。でも。
可愛いよって。無理しながら言ってた気がする。
深緑の夏の頃、僕は夏休みでミサちゃんに会えなかった。
彼女は寂しくないだろうか。僕はそれが気がかりで。
一度、こっそり夏休みの教室に入ってミサちゃんに会った。
忍び込んだんだ。樫の木にトカゲが這うようなもんさ。
夏休みなんて無ければいい。
そんな風に思った。
思うまでも無く、狂喜乱舞と悲歌慷慨の渦でボンクラな
僕等はすぐに二学期をスタートさせたんだ。残暑が続く中
一度だけ、ミサちゃんは深緑の浴衣を魅せてくれて、
これからは、もっとオシャレするからと言った。
僕はオシャレなんかどうでもよくて。窓辺さんって。
シャンとして呼ばないといけないような、気持ちが
飛び出して、フワリフワリ自由自在に好きな方へ
どこまで飛んでも、飛んでいないような気持ちがして。
緑黄斑の着物に着替えた窓辺さんを、まだ僕は。
ミサちゃんって呼んでて。まるで近所のお姉さんを
繋ぎ止める様な呼び方をしていて。でも彼女は笑って。
フハハハ。って屈託が無くて。
『徳くん、これからが魅せ場なの。』
そう言った。
黄色の着物は驚くほど、窓辺さんを美しくしていて
色彩が彼女の色なんかじゃなくて、彼女こそが色彩で。
それを伝えたいけれど、言葉も何も思いつかなくて。
クルクルクルクル、窓辺さんが黄紅に着替えて来て。
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