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とりあえず鋏が離れたことにほっとする。
俺は泣きそうになりながら先輩の胸に頭を押し付けた。
「お願いします、先輩」
「…………逃がさねぇよ?」
首筋に当てられた鋏と、その言葉に背筋が粟立った。
「じゃあ、俺は料理作ってタオル持ってくるから」
俺が黙ったのに満足したのか、先輩は今度こそ鋏を仕舞って部屋を出て行った。
垣間見えたか狂気の表情は、俺が知ってると思ってた先輩と全然違う。首に鋏を突き付けられた時
「マジで殺されるかと思った…」
怖くて恐くて、恐怖の対象と分かっていてもすがりつかずにいられなかった。まっすぐ目が、見られなかった。
とりあえず、先輩が危険だということが分かった。でも、分かったところでどうすればいい?
手錠がかかっていて、ベッドから脱出することすら困難なのにあんな状態の先輩から逃げられるか?
こういう時は逆に考えるんだ…逃げなくても、いいさ。
軽く奇妙な冒険が始まりそうな言葉が頭に浮かぶ。
でも………
「あー……考えるの疲れた。もう寝よう」
ごちゃごちゃ考えるのは向いてない。たぶんしばらくは(俺が変なことをしなければ)殺されないだろう。
俺は少し寒いなぁと思いながら、いつもよりあっさり意識を手放した。
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