序傷

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 普段、感情を顔に出さないこの先生にしては珍しく、それが微笑みのように見えた。  イケメンなんだから、いつもこういう表情をしていればきっとモテるだろうに。 「宮沢がふざったって叫んでる時」 「先生お願いですから忘れてください今すぐ忘れてください本気で忘れてくださいお願いします」 「無理。面白かった」 「お願いですからぁ!」  そういえばわたし、さっき叫んだんだった。  ふざったって。  思い出して、顔が熱くなる。  きっと今、わたしの顔は真っ赤だろう。  同じイケメンに何かを言われて赤くなるのなら、もっと別のシチュエーションが良かった。  唸りながら俯けば、四月一日さんが苦笑しながらポンと肩を叩いてくれて。 「えっと、原因のワタシが言うのもなんですけど……その、諦めた方が、良いですよ? 松前先生は自分が面白いと思った事は、意地でも忘れませんから……」 「何それ!?」  相手が先生だから面と向かっては言えないけど、物凄くたちが悪い!  自分でも呆れなのか諦めなのか半分わからないため息を吐くと、ユキちゃんも顔の筋肉が僅かに引き吊っている。  手に持ってる焼きそばパンは、言い合いの所為で口を付けられてないどころか袋から出されてすらいない。  保健室で食べるつもりなのかな? 「うん、確かに面白かったな」 「湯浅先生まで……」  松前先生よりも少し高めで、陽気な声。  ケタケタと笑う湯浅先生に、ガックリと肩を落とす。  きっともう、何を言っても無駄なんだろうな。 「あ、それでは。ワタシ達、保健室に行って来ます」  またペコリと頭を下げて言う四月一日さんに続き、わたしも先生方に会釈をする。  ユキちゃんにも行くよと伝えると、コクンと頷いた後に小さく 「あ……」と零した。  そして、手に持っていた童話集を四月一日さんに差し出す。  ていうか、まだ持ってたんだね。 「これ。忘れ」 「だわっ、すすすすすみません!」  ユキちゃんの声を遮りながら本を受け取ると、四月一日さんは早歩きで自分の席に戻っていく。  机の上にはびっしりとトランプが並べられている所為か、四月一日さんはそこに本を置こうとした手を止めて、一瞬の間を開けてから本を椅子の上に置いた。  次にわたしと机の上を困り顔で交互に見て、やがて申し訳無さそうな表情でわたしに頭を下げてから、机の上のトランプをかき集める。
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