2人が本棚に入れています
本棚に追加
それを少々雑に箱にしまうと、机の横に掛けてあったサブバッグにポイと放り込んだ。
ついでに椅子に置いた本も入れてから、また早歩きで戻って来て
「すみません」と言うと、今度こそ松前先生と湯浅先生の隣を通り抜ける。
わたしとユキちゃんも、その後ろに続く。
わたしたちのクラス、一年六組は五階で、保健室は一階。
結構遠いが、そもそもわたしは念の為に行くだけで傷が痛む訳じゃないから、苦ではない。
みんな、既にどこかしらで昼食を食べてるらしく、他に人のいない廊下を四月一日さんを先頭に歩いていく。
ドアの小窓から見える教室にも、ほとんど人がいない。
足音が、やけに響いてる気がした。
「……あ、魔女だ」
「ま、魔女って、あの購買の、ですか?」
「え? どこどこ?」
わたしの後ろを歩いていたユキちゃんの呟きに、窓の外を覗いてみる。
校庭の隅のベンチに座る人影が見えた。
膝の上に小さな箱っぽい物が乗ってるし、魔女もランチタイムなのか。
魔女というのはこの学校の購買で働く女性で、赤い眼のお婆さんの事。
いや、正確には、お婆さんだと言われてる人。
実際の年齢は誰も知らない。
ここからは見えないけど、お婆さんと呼ぶには瑞々しすぎる褐色の肌と薄くて長い真っ赤な唇に、ここからでもわかるスタイルの良さ。
目が鋭くて背は高く、いつも黒い服を着ている。
四十年以上あの姿のままらしく、少なくとも六十歳を越えてると言われてるんだから驚きだ。
見た目は二十代前半くらいなのに。
「んー。当たり前と言えば当たり前だけど、魔女も食事とかするんだね」
「いや、宝木くん。確かに園田(ソノダ)さんは魔女と呼ばれてはいるが、人間だ。食事ぐらいするだろう」
「……まあ、そうですけ……って貴方、いつからそこにいたんですか? しかもどうして僕の名前を知ってるんです?」
そんな会話に、少し驚きながら振り向く。
ユキちゃんの独り言に答えたのは、光の反射具合によって赤くも見える綺麗な黒髪を緩く束ねた女の子で、元からキリリとした顔立ちなんだろうけど、どことなく不機嫌に見えちゃう。
……いや、眉間に皺が寄ってるし、本当に不機嫌なんだろうな。
難しい表情で腕を組む姿は真面目で凛とした雰囲気を醸し出していて、四月一日さんよりもメガネが似合いそうだ。
「む……同じ学校の生徒の名ぐらい、覚えていて当然だろう?」
最初のコメントを投稿しよう!