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「えと、前から言ってますけど、全校生徒の名前や顔やクラスや寮の部屋番号の暗記、普通でも当然でもないです。緋泉(ヒズミ)さん」
うん、これは四月一日さんが正しい。
同年代にしては落ち着いた声のお姉さんに、同年代にしては高めの声の四月一日さんがおどおどしながら言うと、お姉さんは僅かに表情を和らげる。
切れ長の目が、優しげに細められた。
綺麗……。
わたしが惚けてる間に、四月一日さんと彼女の話は進んでく。
テンポの良い会話に、付き合いの長さを感じた。
「お前が記憶力が無いだけだ。私も蒼真(ソウマ)も覚えられているんだしな」
「あ、貴女達が異常な、だけです」
「何を言う。異常とは失礼な奴め」
「本当の事です」
「なんだと? 私や蒼真の何処が異常だ言うのだ。二十字以内で説明しろ」
「全て、の三文字です。いえ、漢字にしたら二文字ですね。貴方達カップル、違ったバカップルの」
「だ、誰がバカップルだバカ者! 私と蒼真はそういう関係ではないといつも言っているだろう! ただの幼馴染みだと何回言えば分かるんだ!」
「言われますけど何か? 否定してても端から見てると貴女達、ラブラブですけど。最後の質問に敢えて答えてあげるとすれば『何回言われようとそんな時は絶対に来ないから安心して下さい』です」
「ラブ……貴様、何を言って」
「事実」
「なっ…………!」
拳を震わせながら顔を真っ赤にする彼女は、さっきまでの凛とした雰囲気は感じられず、むしろ可愛くすらある。
何故か普段よりどんどん饒舌になっていく四月一日さんの唇は歪に弧を描いていて、確実に楽しんでいる。
わたしの中で、彼女と四月一日さんのイメージが一気に崩れる。
彼女は真面目でちょっと怖そうなお姉さんから可愛くて可哀想なお姉さんに、四月一日さんは引っ込み思案でおっちょこちょいな人から人をからかうのが好きな良い性格してる人へと、印象が塗り替えられる。
って。
今さらだけど、知り合いなのね。
「……お二人さん、悪いけど、僕らを忘れないでくれるかな」
ユキちゃんの言葉に、お姉さんはハッとして頬を掻いた。
「あ……紹介するの、忘れてました。一年三組の学級委員、尾崎(オザキ)緋泉さん。こう見えて同い年です。今までの会話で分かると思いますが天野(アマノ)蒼真さんと言う恋人がいるので、美人だからって手を出しちゃ駄目ですよ、宝木さん」
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