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あ、大人っぽいから上級生かと思ってたけど、同い年なんだ。
「……貴様はいい加減黙っていろ!」
「断ります」
「いや出さないから。人を女の敵みたいに言わないでよ四月一日さん」
「其方も断ります」
「いやどうして!?」
まるでコントのような三人のやり取りを見てると、自然と頬が緩んだ。
ユキちゃんはこの学校で、わたし以外の人とはあまり話さない。
別に人見知りとかじゃなかったはずだし、本人も否定してたけど、何故か先生たちとも生徒たちとも、あまり話したがらない、というより関わりたがらないんだ。
わたしがいない時は、いつも一人で本を読んでいると、友だちの縁(ゆかり)が言っていた。
本と言っても、四月一日さんが読んでいたような古い紙媒体の物じゃなくて、机に内蔵されたコンピューターで読む奴だ。
昔はほとんどの人が紙の本を読んでたらしいけど、あんな重くて破れやすくて汚れやすくて水に弱い紙製の本なんて、もう時代遅れだ。
図書室に一応は置いてあるが、そちらを借りて読む人なんてほとんどいないらしい。
とにかく、これを機にそんな状況を打破できないかと考えてみる。
おかしな事を言ってくるとはいえ、たった一人残った大切な人なんだ。
友だちの、せめて一人か二人は作ってほしい。
「まーそんな事はどうでも良いんですが緋泉さん。貴女の専属王子様も来た事ですし、早くお昼、食べに行った方が良いと思いますよ?」
「あ……」
「サラッと僕無視されたんだけど」
四月一日さんが歪んだ口元をさらに歪めながら指差した先には、左頬に大きな切り傷の有る男子がいて、両手にお弁当らしき、大きな桃色の包みと小さな水色の包みの二つを持ったまま俯いている。
四月一日さんが尾崎さんの王子様と言ってたから、多分、彼が天野さんなんだろう。
頬が赤くなってるから、恋人とかカップルとか言っていた時からいたのかもしれない。
慌てて振り返った尾崎さんの顔も、どんどん赤くなってく。
「あ……いえ。宝木さんの事は、無視した訳じゃ……ないんです…………よね?」
「ねぇ、どうして疑問系? なんで僕に聞くの?」
トマトみたいに赤くなって硬直している尾崎さんの横で未だにコントを続ける二人の会話を聞きながら、天野さんと尾崎さんの様子をうかがう。
「……緋泉、早く行こう。昼休み、終わっちゃうし……」
「あ、嗚呼……そうだな! 早く行くとしよう!」
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