序傷

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 後ろも振り向かずに言うのは、足音から判断してるのか。  走りながら首だけで後ろを向いてみると、確かに鬼はこっちが少しでもスピードを落とせば少しずつ距離を詰められてしまいそうな場所にいた。  彼女は奴を振り切ろうとしてるのか右へ左へ曲がるけど、奴との距離は一向に広がらない。  運動部所属で一年の中では体力が有る方な僕はともかく、彼女はかなりキツそうだ。 「も……少し」  息を切らせながら、彼女が呟く。  もう少しって事?  何が?  そんな事を考えられるのは、まだ体力に余裕が有るからか。  けど、いつまでも引っ張られて彼女に負担を掛ける訳にもいかないし、本格的に走り出す。  スピードは彼女に合わせるけどね。  そこからまた暫く走った頃、とうとう彼女が足を止めて、膝に手を突いて息を整え始める。  後ろを見ると、いつの間にか路地裏に入っていて、奴の姿は見えなかった。  引き離せた、のか……?  彼女の息が整うのを待ちながら、疑問を頭の中で整理しようした所で、彼女がまた僕の手を掴んで走り出した。  まだキツそうだけど、本人は大丈夫と判断したらしい。 「ねぇ、もうす」 「やっべ!」  それでも、もう少し休んだ方が良いと勧めようとした時に、彼女がキュイと音を立てて無理矢理スピードを殺す。  いきなり過ぎた所為で彼女の頭に鼻をぶつけてしまった。  鼻が痛い。  けど、とりあえず彼女の視線の先を見てみる。  もしも、こんな所で前後から挟まれたら確実にアウトだから。  まさか、前から別の鬼が来たんじゃ……。  そんな僕の考えは、杞憂に終わった。  が。  ――ピシッ  不吉な音に、彼女は僕の手を離してUターンする。  擦れ違い様、呟かれた。 「終わるまで、二番目の角を曲がった所の箱の後ろに隠れてろ。なんとかなる筈だ」  後ろからさっきの奴が追って来てたら、と思ったけど、彼女の足取りに迷いは無く、ここにいても仕方が無いので僕も走る。 「おぎょ」  しかし、少しして彼女が変な声を出しながら転んでしまい、つい足を止める。  彼女はすぐに起き上がろうとしたのだが。  脇の建物が崩れ、彼女目掛けて大量の瓦礫が降ってきた。  僕の足は、勝手に彼女の元へ。  思わず、座り込むような体制だった彼女を覆い被さるように庇う。  次の瞬間、ドシャッという音がすると共に、背中を大きな衝撃に襲われた。
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