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「教師も生徒も」
「……それはわたしも含めて、かしら?」
無視を決め込むはずだったのに、思わずユキちゃんを睨み付ける。
「当たり前じゃん」
ニッコリと可愛らしい美少女スマイルで返されて、沸々と怒りがこみ上げてきて苺牛乳の紙パックを持つ右手に力が入った。
慌ててパックを机に置く。
「この学園をおかしいと思わない時点で、カナ姉もおかしいよ」
「おかしいのはユキちゃんの方よ。こんなのどこの学校にだって有る事でしょ?」
ユキちゃんの目をまっすぐに睨みながら言い返せば、ユキちゃんも急に真面目な表情になってわたしの目を見つめ返してくる。
「本当に、そう思ってるの?」
「……当たり前じゃない」
先に視線を逸らしたのは、きっと幼馴染みがおかしな事を言ってる現実を直視したくなかったから。
……絶対に、そうだ。
そうに、決まっている。
それ以外の理由なんて、ありえない。
「……じゃあ、僕が通ってた小学校の話、聞かせてあげようか?」
「……かなり着色されてそうだし、良いよ」
聞きたくない。
ユメモノガタリなんて聞きたくない、聞く必要が無い。
わたしは、ゲンジツさえ見ていれば良いんだから。
「酷いなあ。僕がカナ姉に嘘を吐く訳が無いじゃん」
「どうだか」
「……カナ姉、本気で教師達の言う事を信じてる訳? もしもこの学校が普通だとしたら、この国自体が狂ってるよ。そんな制度を作った政府も、普通だと思ってる国民も。いや、普通じゃなかったとしても、この学園を作った時点で政府は狂ってるか」
――バチッ
どこか嘲笑うような言い方に、自分の中から、何かが弾ける音がした。
静電気のように、小さくて。
でも、鋭く確かな音。
それを合図に、大きく息を吸い込んで、胸の中に溜まった黒いドロドロした何かを、ユキちゃんにぶつけようと、立ち上がる。
「ふざった?!」
いきなりだった。
ふざけないでと叫んでいる途中で、一冊の本がわたしを目掛けて飛んできたのだ。
その本が見事、鼻の頭に命中し、ユキちゃんへの黒い感情もどこかへ吹き飛んでしまった。
鼻を両手で押さえながら本を見てみると、タイトルからして童話集らしい。
というか、こんな厚くて硬くて重そうな本、誰が飛ばしてきたんだろう。
……いや、今時わざわざ紙媒体の本を読む変わり者なんて、わたしには一人しか心当たりが無いけどね。
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