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「…さすがは、服部殿。この状況であっても息一つ乱さぬとは…。」
「世辞など言ってる場合ではござらぬ。この間にも追っ手が近付いて来ておるや知れませぬぞ。」
鬱蒼と生い茂る木々が風に揺れる度に、緊張が走る。
風か、獣か…追っ手か。
こんな山奥ならば、追い剥ぎの類いかも知れぬ…。
…今であれば、どのような類いのものでも油断は出来ない。
「…確かにそうでござるな。徳川様、難儀な道が続きまするが、何卒、今暫くの辛抱お許し下され…」
切り株に腰を下ろし、ほっかむりにしている手拭いを締め直している徳川家康に深々と頭を下げた。
「頭を上げて下され、竹殿…。いや今は名を改めて、長谷川秀一殿であったな。生きて三河に帰るには、貴殿だけが頼みの綱…。これしきの事、何の不満がありましょうや。のぉ、皆の者。」
『おぅっ!!』と言う皆の掛け声と共に、家康が微笑んだ。
「私如きに何と勿体無い御言葉…。例え、この身が朽ち果てようとも、徳川様御一同を必ずや生きて三河にお連れ致しまするッ!!」
目頭が熱くなり、頬に温かいものが流れ落ちた…。
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