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ソファに再び腰を下ろした佐伯の前に男が座った。
「あのまま帰して良かったのか?」と佐伯の表情を伺う。
「いや」と答え、佐伯は言葉を続けた。
「お前が手に入れた情報を下にあの雑居ビルへと向かったが、既にセイレーンの手下は殺されていた。そこで、さっきの白井 由梨が窓の外から落ちてきたんだ」
そう言いながら、新しいタバコの穂先をオイルライターで炙った。
男は、テーブルの上の密閉ガラス容器内に入っている角砂糖を、まるでポップコーンを食べるかのように口に運び、噛み砕きながら「じゃあ、依頼通りにセイレーンの手下を殲滅したのはお前じゃなかったのか。でも、さっきの女子高生、記憶が無いって言うのが引っかかるよな」と言った。
佐伯は、タバコの煙を灰に溜め込み、ゆっくりと吐いた。
すると、男は「そういや、お前も記憶が無いんだよな。セイレーンと寝た以前の記憶が」と訊ねる。
「あぁ、それよりも……」と、言い、佐伯はテーブルの上に一錠のピルを転がした。
「これは?」と男が覗き込む。
「エイズの薬だ」
「エイズって、お前いつの間に貰ったんだよ?」
「アホか。さっきの女が持っていた」と言い、ピルをトレンチコートの胸ポケットに仕舞い込んだ。ついでに小さな試験管の様な容器を取り出し見せつける。
「で、これは?」
「さっきの女の唾液を寝ている間に採取した」
途端に男の表情が強ばった。
「何だって! お前、寝ている間にお口を拝借したのか?」
「一応、全身も確認したが『ノルマ』も見つからなかった」
男は、口から砕けた角砂糖を吐き散らしながら「ちょ、オマっ。あの子の、お体まで拝借したのか!?」
「どうした? 何か文句でもあるのか?」と言う問いに、男は体をくねらせながら「俺も混ぜろよぉ」と悔しそうにうな垂れた。
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