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深夜一時頃。
娘の部屋の扉が閉まる音が、寝室で眠る母親の耳に入ってきた。
「あら……あの子。帰ってきて何も言わずに部屋に入るなんて変ね」
何時もなら会社から娘が帰宅すると、寝室をそっと開き、母親の寝ている姿を確認するのが日課みたいなモノだった。
囁くように「ただいま」と言う娘に対し、起きている時は、笑顔で「おかえりなさい」と返事をする。
お酒でも飲んで酔っているのだと思ったが、妙な胸騒ぎがした。
しばらくしても、部屋から出てくる様子がない。
やはり泥酔して眠ってしまっているのだと納得しようとしたが、やはり何かが気になって仕方がなかった。
母親は、寝室の扉を開け、廊下の向かい側にある、娘の部屋の前へと歩み寄る。
静寂の中、部屋の中の様子を伺うが物音一つしない。
理由は分からないが、何か得体の知れない不気味さを感じる。
二回ノックをした。
…………返事は無い。
「亜紀。入るわよ」
そう言って、母親は娘の部屋の扉をゆっくりと、そして恐る恐る開けた。
照明も点いてない暗がりの中、「あれ?」と言う母親の目の前には娘の姿は無かった。
部屋の中を見回したが、特に普段と変わった点はない。
きっと娘は風呂場へ向かったのだろうと、無駄な心配をした自分を恥ながらも、安堵のため息を吐いた。
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