30人が本棚に入れています
本棚に追加
■□
舎人の一人が、その断末魔の叫びごと上半身を食いちぎられた。
桔梗に絡んできた男だ。
「くそっ! 陰陽寮のジジイどもめ。
なにが今日の襲撃はないだ」
清明がぎりりと歯を噛み締める。
陰陽寮の読みでは明日のサウィン到着までは本格的な攻撃はないとしていた。
だが実際には敵が送り込んで来たのは芒種童子が燃やし尽くしたエレメンタルだけではなかった。
もちろん都の備えに怠りはなかったはずなのだが、防魔の戦において心理的な構えの有無は大きな影響がある。
崩される羅城、焼かれるゲート、倒壊する家屋に毟り剥がされる石畳。
予想外の攻撃にさらされて、僅か半刻ほどで平安メトロポリタンは戦場の様相を呈していた。
「なんだあの化猫は!? あれもエレメンタルなのか?」
割れた石畳の隙間から這い出てきた土色の小人型エレメンタルを光の刃で斬り捨てた舎人長が叫ぶ。
彼の部下たちを食べ散らかしているのは、人の数倍の体高がある闇色の毛並みの猫だった。
「あれも使い魔だ。“ファミリア”といってエレメンタルとはまた別モノだが」
「勝てるのか?」
エレメンタルを相手取っての戦いを見る限り、授刀舎人たちも相当の手練れであることは間違いないのだが、その彼らがファミリアという使い魔相手には為すすべもないままに餌になっているのだ。
とても人間が太刀打ちできる相手には見えない。
「オレなら勝てる」
黒猫を見据える清明の目に多重色の妖し気な光が宿る。
「私にできることは?」
「桔梗を守っててくれ」
「分かった」
舎人長は強く頷く。
最初のコメントを投稿しよう!