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サウィンから飛来したエレメンタルとファミリアは多くの陰陽師と衛士の犠牲と引き換えにしてようやく退けられた。
だが平安メトロポリタンは都市としての機能を完全に失った。
あちらこちらのブロックからいまだ火の手はあがり続けている。
地面にしゃがみ込んだ清明の足元には、散乱する瓦に紛れて子供の遺体があった。
それは先に黒猫に狙われていた男児だった。
目立った外傷はなく、目を閉じて安らかとさえ言える死に顔をしている。
使い魔にやられたのではなく、おそらくは落ちてきた瓦に巻き込まれたのだろう。
「桔梗……」
清明は振り返らないままに、自分の後ろに立つ女の名を呼ぶ。
自分が戦っていれば犠牲を出さずに済んだ、などと考えているわけではない。
街が戦場になってしまった時点で、多くの死者が出ることは決定づけられたのだ。
それは清明一人の力で食い止められたものではない。
責任のありかを問うならば、それは都議会や陰陽寮にある。
サウィンの禍しさなどは端から判りきっていたのだから、存在を確認した時点で偵察などという悠長な手を採らずに総力攻撃を仕掛けるべきであったのだ。
だがそれでも、清明は自分を戦わせなかった桔梗に対して心中で言葉にはならない感情が渦巻いていた。
「清明はわたしを責めますか?」
桔梗は表情の無い顔でそう訊く。
「責める気は、ねえ。
だけど、何で戦わせてくれなかった?」
絞り出すようにそう言うと清明は立ち上がり振り返る。
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