平安サバト

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「わたしは清明を三度も失うことには耐えられません」 桔梗は駆け寄り、清明の胸に顔を埋めて背に両手をまわす。 「前にも言ったことだが…… 最初に失われた晴明はオレじゃねえ」 棒立ちでなすがままの清明は、桔梗に語りかけながらも朱雀ストリートの先をぼんやりと眺める。 破壊を免れていた議事堂はいつもと変わらない顔を見せている。 「平安はもう終わりです。 二人でここを出ましょう」 太陽が沈もうとしていた。 議事堂とその手前に聳える朱雀ゲートが落陽を受けて赤く燃えているようだ。 「オレはお前の恋人だった晴明じゃない」 すすり泣きの声が漏れ始めた。 無言で桔梗の腕に力が込められる。 「お前の好きだった晴明は三年も前に死んだままなんだよ。 いくら“コア”に晴明が大切にしていた水晶を使っても式神は所詮式神だ。 本物になれるわけじゃない」 嗚咽が漏れる。 冷たい風が二人の狩衣の裾を揺らした。 「でも、それでも…… あなたが晴明とは姿が同じなだけの式神でも…… 私はもう昨日みたいな思いもしたくないんです。 だから……」 涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔を上げた桔梗は絞り出すようにそこまで言って、声を詰まらせる。
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