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瞼に触れた指先はそこで止まることなく、さらにズブブブと押し込まれた。
眼窩からせり出す眼球。
球面に沿うように進んだ指はあるところでぐっとそれを掴むと今度は来た道を戻る。
掴み出される球体とともに引き摺られるのは白濁した膜、筋、神経伝達繊維束――そして、さらさら、ねばねば、うっすら混じる桜色と多様な液体。
様々なものをちぎりながら獲物を掴み出した手は、今度は対照的な優しさでそっとそれを包む。
そして最後の動作は投擲。
飛距離を稼ぐために十分後方に引いた上で、その手は渾身の力で水面も荒々しい黒い海に向かって眼球を投げ放つ。
月もない夜闇の中、きらきらとした粉末のような光を瞬かせた眼球がどれほどの距離を飛んでから水中に没したのかは、投げた当人にも見えなかった。
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