平安サバト

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「ちょっと、何で普通に渡せないんですか」 新聞は受け取り損ねてテーブルの下にバラバラに散ってしまった。 桔梗はどこか幼さを残す桜色の頬を膨らませる。 もう一度、今度はわざと盛大にため息を吐くと彼女はしぶしぶといった様子で腰を屈めてそれを拾い集める。 一つ括りに纏められた艶やかな長い髪が地面に着くのも気にもとめていない。 「髪、土付くぞ。せっかく綺麗な髪してんだから少しは気を配れよ」 「清明が投げるからです」 「こんなニュース読んで穏やかでいられるハズがないだろう」 言われて初めて桔梗は新聞の見出しに目を落とすと、少し眉をしかめる。 「序列特位の式神敗北、のニュースですね」 そう言いながら纏めた新聞を丁寧に折り畳むとティーポットの脇に置いた。 内容までは読むつもりがないらしい。 「まるで他人事みたいだな。だけど直ぐにそうもしていられなくなるぜ」 清明と呼ばれた男は組んで反らした指を頭上に掲げて伸びを一つした。 背が高く引き締まった体つきの彼が、ただ体を伸ばすだけでも何かのウォーミングアップのように見える。 「分かってますよ。いくら私がおちこぼれ陰陽師でも、あの城の発しているドス黒い威ぐらいは感じます」 桔梗はほっそりとした喉を反らせるようにして南の空を仰ぎ見る。 肉眼では確認できないものの、その方角から押し寄せる悪意はまるで引力でも持つかのように彼女の意識を吸い寄せる。
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