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「金神のようなものなんでしょうか」
金神とは暦に従って各方位を遊行する凶神のことだ。
この神が坐する方位を犯せば家族七人に死が及び、家族がその数に足りていない時は、隣の家の者にまで害を及ぼすと信じられている。
「ああ。だがあれの威は個人レベルで災厄をもたらす金神とは比べものにならねえ」
「ウシトラの大金神だという話もあります」
「巷じゃ“サウィン”なんて呼ばれてるがな」
「名が存在を規定するということをまるで理解していないアタマの悪い方が付けたのでしょう」
事実、魔が集結する宴の名を冠せられてからは、サウィンはその禍々しさを増している。
特位の式神が敗北した原因は、無責任な情報を垂れ流すマスコミと、それに踊らされて碌に協議もしないままに陰陽師の出動を決めた評議員にあると桔梗は考えていた。
「でも今はそんなことより」
「なんだ?」
「髪に土が着いたお詫びをしてもらうのが先決です」
「それはお前が」
「キスしてください」
「ここでか?」
「ここでです」
「帰ってから……」
「ここでです」
清明はむううと唸りながら自分の頭をガシガシと掻きむしる。
それから「わかったよ」と呟くように言うとテーブル越しに腰を屈めて桔梗に顔を寄せた。
彼女は目を閉じてそれを迎えた。
「おかえりなさい」
清明が向かいの椅子に座ったのを見届けてから、桔梗は目を糸のように細めた笑顔になる。
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