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「ん? お前ら陰陽師か?」
「はい、そうですけど」
桔梗が足を止めて応える。
桔梗の桜色の狩衣に施された五芒星のパターン文様はそれほど目立たないはずだったが、清明の方が目を引いたらしい。
清明の狩衣には胸一面に逆さまの五芒星が一つ大きく染め抜かれており、耳には格子型――いわゆる九字印のピアス。
奇抜なファッションの人間が多いこの朱雀ストリートでもやはりこれは目立つのだ。
都の危機にも関わらず普段と同じように立っていた東市で買い物を終え、やはり人の往来絶えないメインストリートを行く二人に声を掛けてきたその男は兵装をしていた。
腰に太刀を佩き、胴丸がきらびやかに日の光を撥ね返している衛士鎧。
授刀舎人(たちはきとねり)のようだが、知り合いではなかった。
声には最初から険が含まれている。
「陰陽師のエース様があっさりとやられちまったらしいな」
端正とは言えない顔に歪んだ笑みを貼り付かせて、男は手に持った新聞をばたばたと振って見せる。
「そのようですね」
桔梗はそれだけを返して目を逸らす。
「天才だなんだと持て囃された挙句がこの様だ。
これで都議会も陰陽師なんぞに予算を割いてるバカバカしさに気付いてくれたらいいんだがな」
「そうだといいですね」
流石にむっとした顔を隠そうとはしなかったが、それでも桔梗は取り合わずにその場を去ろうと足を踏み出した。
「ちょっと待てよ」
男が桔梗の華奢な肩に手を掛けた。
「触らないでください」
彼女はそれを払いのける。
バシッ、と音がするほどの強さだ。
「痛っ! このアマ何をしやがる」
男が声を荒げた。
この頃になると、行き交う通行人が距離を置きながらも足を止めて興味深そうに二人を見ていた。
陰陽師と授刀舎人。
呪と武を用いるこの二つの組織の仲の悪さは有名なのだ。
「清明?」
桔梗は連れが自分の隣にいないことにこの時になってようやく気付く。
どうやら絡まれていることに気付かずに先に行ってしまったらしい。
得心がいって、桔梗は再度男の顔を見返す。
「なるほど、女一人だと思って強気に出ているわけですね」
上背もあり細身ながらも筋肉質、何よりも狂暴な顔立ちの清明が隣にいるというのに、このチンピラ紛いの授刀舎人の威勢がいいことを不思議に思っていたのだ。
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