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他の男たちも同様だった。
口々に起動ワードを唱えて皆が柄から光の刃を伸ばしていた。
清明は髪を掴んでいた男を彼らに向かってまるで頭陀袋のように投げつける。
舎人たちは咄嗟に切っ先を退けて怯む。
その隙を突いて清明は敵陣のただ中に飛び込むと青嵐の如き身のこなしで男たちの身に拳を叩き込んでいく。
桔梗が息を飲む間もない出来事だった。
一撃一撃が人間離れした膂力で、打たれた男たちは例外なく数メートルの距離を飛ぶ。
またたく間に四人が地に伏し、残すところはリーダー格の舎人のみとなった。
「これは驚きだ。
陰陽師というのは肉体の鍛錬もしているものなのか……」
男は自分のピンチも忘れてそう呟くように言う。
「オレ様は特別なんだよ。相手が悪かったな」
歯を剥いて嗤う清明の貌は、まさに凶相と呼ぶに相応しい。
男は背筋を伸ばすと光の刀身を消して柄を腰の鞘に納めた。
「授刀舎人が素手の陰陽師と剣で戦って負けるなどと恰好の三面記事だ。
……まあもう手遅れかもしれんが」
そう言いチラリととギャラリーに目をやると、男は拳を握って構え直す。
「待ってください!」
今にも清明に飛びかかろうとしていた男を止めたのは桔梗の言葉だった。
「なに」
決死の突撃を止められた男は怪訝そうな顔で桔梗を見る。
清明は既に構えておらず、棒立ちになってあさっての空に顔を向けていた。
凝らした目には人間を相手にした立ち回りの時とは明らかに桁の違う威。
「お早いお着き、だ」
空には飛行し街に至ろうとする数えきれないほどの異形の影があった。
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