平安サバト

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■□ 蜻蛉のような翅をもった緑色の人型。 その肌も顔も緑系のオーガンジーを纏めて形作ったかのように向こうが透けて見え、半球型の複眼のような目と翅だけがガラス質であるかのようにきらりと陽光を反射している。 釣られてあげた視線の先に異形の影を認めた授刀舎人の男は、慌てたように抜刀する。 「なんだ、あれは」 男が問い掛けた相手は清明だったが、桔梗が代わりに答える。 「おそらくはエレメンタル――シルフと呼ばれる外つ国の使い魔です」 「あのサウィンとかいう城からの襲撃というわけだな」 清明に殴り飛ばされて転がっていた他の舎人たちもぞろぞろと起き上がる。 流石に喧嘩を続けようなどという者はなく、皆が剣を抜くとエレメンタルを迎え撃つ姿勢をとる。 清明がふん、と鼻で笑った。 「あれはただの斥候だろう。 もっとヤバいのは他にいる」 衛士たちがふてぶてしい態度の陰陽師に何かを言おうとする間にも異形はぞくぞくとやってくる。 空からの襲来者に対して平安メトロポリタンのウォールは何の用もなさない。 イナゴの大群のようなエレメンタルたちはあっという間に都の上空を覆った。 「降りてくる前に焼き尽くしてやる」 清明がにいっと笑む。 幾重もの色が灯ったように瞳が怪しく輝く。 「清明はダメです。 ここは私に任せてください」 桔梗が小瓶を取り出す。 先の蒼い物とは違い、今度は真紅の液体が入っている。 『directive shiki-Spirit : tai-shyo command : maximum fire __enter』 瓶から、膨れ上がるバルーンのように出てきた液体は、髪を髷に結った朱色の肌の少年型をとる。 「あの使い魔たちを燃やし尽くしなさい」 桔梗の言葉を聞きいれた両肌脱ぎの少年が、ほっそりとした肉体を躍動させ身の丈よりも長い棍を振り回すと、その先端にはいつの間にか炎が宿っている。 更に棍が弧を描くと、その度毎に炎は大きく燃え盛っていく。 まるで空中から目に見えない炎をかき集めているかのようである。 「これほどの威を持つ式神を見るのは始めてだ……」 男が驚嘆の表情で呟いた。 清明が彼の肩に腕をまわして意地悪く笑う。 「大暑童子――序列壱位の式神で炎を能く操る。 まあ見てな、あの程度の蚊トンボなら一瞬だぜ」 力を溜めこむようにバックテイクした棍を少年が空に向かって振るった。 次の瞬間、天が紅蓮の炎で埋め尽くされた。
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