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そして、俺達は壇上から降りて完全に集会がお開き、になるはずだった。
「魔王様! 御願いしますよ!」
「魔王様、いつもツケを払わない奴がいるんですけどねぇ」
「魔王様っ、俺達を導いてくれ!」
と、様々な言葉が絶え間無く投げ掛けられ、ツケを払わないのはどう考えても、払わないと解った上でツケを行っているお前も悪くね? とも思ったが、俺がなんとかするわって言うしかなかった。
で、最後の奴は体格がばかでかい上に丸太みたいな腕で、人の背中を太鼓の達人ばりに叩いてきて迷惑だったけれども、最善を尽くす一言と愛想笑いを添えといた。
「魔王様、洗濯屋のリンちゃんがリザード様に胸キュンし過ぎて、苦しいらしいです」
「魔王! 新しい車を買おうと思うんですが、ヴィッツとフィットどっちが良いですかねっ!?」
「魔王、俺、無職なんですけどこれからどうしたら良いと思いますか?」
「リザードの件は、頼むから本人に言ってくれると助かるが、手始めに文通とかいかが? 車はフィットの方が名前の響きが良いんじゃないかな、ジャストフィットみたいな。後、君は働きなさい」
止む事の無い質問の嵐、どうでもええがな、そんな思いを押さえつけるも、絶えてしまった愛想笑い。
しかしながら頼ってくれている、そう思うと無下にするのも可哀想なので、粛々と真面目に返答した。
そんな俺、マジ魔王の鏡。
「魔王、皿洗いの人手が足りません」
「魔王、恋人募集を掛けたい」
「魔王、姑のトメさんと嫁のヨシコさんが修羅場になって、コミュニケーションが取れなくなったそうです」
「うん、それなら俺がやるよ。恋人募集なら、広場の中心で愛でも叫べば上手くいくよ、きっと。旦那は何をやってんだ、旦那は。縄でも付けて引っ張ってこい」
終わりの無い質疑応答に、俺はもうどうしようもなくてエミルに『後は宜しく』っと告げて、皿洗いを求人している者にほいほいついて行った。
逃げた訳ではないんだ、助けを求めているんだから、今行かないでいつ行くんだ?
誰に何かを言われた訳ではないが、自分にそう言い聞かせつつ皿洗いの旅に出掛ける。
……俺、魔王なんだよな?
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