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母を慕う気持ちが恐怖を超えたのだ。
(おかあさんのところへかえりたい!)
倫太郎は校門へ駆け出した。
(いえにかえれば、きっとオトナがまもってくれる)
その間にも海老の数は増加し、四階建ての校舎を飲み込んでいく。
その重みで屋根は歪み、梁(はり)はへし折れ、校舎の窓ガラスが全て砕けた。
粉々になった窓の破片が頭上に落ちるところで――姉の声が聞こえた。
「倫太郎! 倫太郎!」
その瞬間、《世界》が霞んでぼやけ、校舎が崩壊する轟音(ごうおん)が遠ざかり、代わりに女性のアナウンスが聞こえてきてきた。
「迷子のお知らせです。鏡石倫太郎君、お母様が受付でお待ちです……」
*
現実では、デパートの一階にある婦人服売り場のマネキン人形の前で、ボンヤリと佇んでいただけだ。
虚ろな目をしていた倫太郎の表情が、みるみる生気を取り戻していく。
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