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《世界》に意識が閉じ込められているあいだは、脳髄に目玉が固定されたようなものだ。
現実の世界で置いてきぼりにされた身体に影響はない。
たとえ、あの《世界》で泥だらけになったとしても、現実では電池をはずされたオモチャのようにボンヤリと立っているだけなのだ。
売り場には大勢の買い物客が往来していた。
どこを見まわしても、ありふれた光景があるばかり――
「倫太郎!」
倫太郎の傍に駆け寄った三歳上の姉は、弟の背中をピシャリ! と、叩いた。
慌てて見上げると、ボブショートの髪形をした姉が恐い顔をして睨んでいた。
怒りで二重目蓋のつり目が、さらに上がっているようだ。
「なーにやってんのよ! バカ! お母さん心配してるじゃん!」
倫太郎は状況の変化に戸惑い、なぜこうなったのか答えを求めるようにマネキンを見つめた。
女の姿をしたマネキン人形は、白い砂浜の上に置かれた砂時計の上に腰掛けて、無機質な微笑を浮かべているだけだ。
「無視する気!」
今度は、頭をげんこつでコツンと殴られた。
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