第1章 ピエロ

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 実は倫太郎は、母と九歳の姉とでデパートに買い物に来ていたのだが、マネキンの仕掛けに見とれている間に、はぐれて迷子になっていたのだ。  ――マネキンが座る砂時計の砂がつきもせず下に流れ続けている。  パネルの後ろに隠したモーターで砂を吸いあげては落としているだけなのだが、それが六歳の倫太郎には手品のように不思議だった。  で、それを眺めている間に、例の悪夢に誘い込まれたのだ。  そうとは知らない姉はイラだっていた。  せっかく海水浴に着ていく水着を買いに来たのに、まだ三階にある子供服売り場にさえ辿(たど)り着いていない。  かれこれ二十分も、「誘拐だったら、どうしよう」などと呟(つぶや)きながら、ベソをかいて弟を探していたのだ。
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