第1章 ピエロ

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 ひんやりとクーラーで冷やされた店内にもかかわらず、姉の黄色いTシャツは冷や汗で濡れていた。目など腫れて真っ赤だ。  殴られた頭の痛みで、ようやく姉に気づき、「あ!」と、倫太郎は声をあげた。  「あ! じゃないよ! にぶいんだから! むむ!」  迷子を見つけて気がゆるんだのか、マネキンが着ている赤いワンピースに姉は目を止めた。  親や親戚に『服飾デザイナー志望だよ!』と大胆不敵に宣言するほど、オシャレが大好きなのだ。  日頃から小遣いを貯めてファッション雑誌をせっせと買い込み、マフラーくらいなら自力で編める腕前になっている。  (倫太郎を連れて帰っても、『なぜ手をつながなかったの!』と、母さんから小言をくらうに決まってるしなぁ。だったら報告はあとまわしにして、少しくらい好きな服を眺めてもいいじゃない)  と、姉は思った。
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