エピローグ

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 そんな歪んだ教育のせいで、清水景子は潔癖症になり、気味が悪くて吊り革も握れなくなってしまっている。  しかし今から思えば、それは清水が平家蟹病の犠牲にならないように、我が子に示した琴山なりの愛情だったかもしれない。  だが、事情を知らない清水にしてみれば異常な父親だった。  そんな琴山が、倫太郎の無事を知らせると、電話口で猫に遭遇したネズミのように取り乱した。  『そ、そんな! どうして~!』  母を侮り、我が子を愛さず、その態度に我慢ができなくなった母が離婚を告げても、顔色も変えずに離婚届に判子を押した父が、なぜかあの少年には怯えていた。  彼女は琴山や倫太郎の《能力》など知らない。なぜ父を倫太郎が打ち負かすのかわからなかったが、こう思った。  (父さんは倫太郎には絶対に勝てないんだ!)  そう気づくと、倫太郎が傍にいると安心できたし、ささくれだった気分が安らいだ。  はじめは父への恐れから逃れる術だと考えていたが、自分でも知らない間に、いつしか恋慕に変化していた。  近藤からメールで《やめとけ》と、父親が倫太郎の母と姉を殺したことを知らされて、もう会えない。会ってはいけないことはわかっていた。  (あたしはその娘だよ、うまくいくわけないじゃん。彼からすればバケモノの娘だよ)  清水は倫太郎に恋していたが、同時に恐れてもいた。  (復讐されるかもしれない)と、心配していたのだ。  だが、なかなか感情はコントロールできるものではない。一度、胸に灯った気持ちは、未だにくすぶり続けていた。    『倫太郎が主治医と一緒にヘルシンキへ来る』と、藤堂正子からメールで知らされて、彼女は大いに喜んだものの、逢えない苦しみに液晶画面がにじんで見えるほど瞳から涙が溢れた。  彼女は涙を拭いながら《ありがとう正子! あいつなら、きっと何とかしてくれる! わたしにはわかるんだ!》そう返事のメールを打った。  藤堂正子は伯父と一緒に淡路島へ疎開していた。  清水の伯父と従兄弟の誠司も高知県にいる。  細波も香川の親戚のところに疎開したらしい。
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