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踏みしめるたびに運動靴の跡がつくが、倫太郎にはそれが無闇に面白く、何度も円を描いて歩いて、
(ボクをおいかけているみたいだ)
と、思っていた。
もう足跡の数が幾つあるのかわからない。
その一つ一つから小さな穴が開き、中から純白の小海老(えび)が次々と飛び出していった。
一匹、二匹、三匹。
海老が群がり、およそ一メートルほどの高さだろうか……。裂けた水道管のような勢いで飛び出してきた。
それも一箇所だけでなく、あちこちから溢れてくる。
蛆(うじ)の塊みたいに蠢く山は運動場を覆い尽くさんばかりに広がり、それにつれて海老が動く音も大きくなっていく。
ささやかな『かさ……、かさ……、かさ……』といった音が、『がさ! がさ! がさ!』という騒音へと変貌し、やがて凶暴さを誇示するように凄まじい大音量が鼓膜に飛び込んでいった。
その騒々しさ驚いて、後ろを振り向いた倫太郎は、はじめて校庭の変化に気がついた。
だが逃げない。
勇気があるのではなく、極度な緊張で動けないのだ。頭が真っ白で何をすればいいのかわからず。倫太郎の喉から苦しげな呼吸音が漏れた。
(コワイ! コワイよ!)
そんな時、ふと脳裏に母親の顔が浮び、魔法が解けたように身体が動いた。
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