第1章

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「好きになった人に今までずっとフラれてきたんだ。 そして深雪にもフラれたし。 オレがモテてしょうがないみたいに言われんの超心外。 深雪から感情こもってなくてそう言われんのは更に屈辱だわ」 ルイは ふてくされていた。 さっきまで優しかったルイの唇は思いっきりへの字になって それでも美しさを崩さないキレイな瞳は 私を精一杯責めていた。 ルイが分からない。 どこまで本気なのか。 専属ヘアメイク以外の感情を 持ってくれているのか。 美奈さんにもそうゆう風に言っているのか。 ルイの私を好きって言ってくれた言葉を 私がどう受け止めていいのか。 不倫妻とはどうなっているの? すごく知りたいけど、知ったところで どうにもできない気がした。 私は専属ヘアメイクの立場以上の特別な感情をどうルイに求めていいか分からない。 何かが足かせになっている。 『オレたちはいくら愛し合っても、一緒にはなれない。 オレはお前の父さんに遊ばれた女の息子なんだから』 無意識の中に潜む遠い昔の記憶の欠片。 好きになってはいけない。 愛し合ってはいけない。 なら 側にいて。 いつまでも側にいて。 『お前が誰と結婚しようと、オレがいつも側にいて世話を焼くから、お嬢ちゃん』 兄はいつも優しく私の手をとってくれた。 結ばれなかった、禁断の愛は 両親と夫を裏切った。 夜這いする幼馴染みの兄を 受け入れ 肌を重ね 仕舞いには、親に見つかり、夫に知られないように、兄は遠くにやられた。 夜這いが見つからなければ 一緒にいられたかもしれない。 兄妹としていれば 深い関係にならなければ 離れ離れになる事はなかったのに。 ルイを好きになりすぎて 深い仲になったら 仲を裂かれてしまう結末が待っているような 苦しんでしまうような そんな気がして ルイとは一線を越えてはいけないと 無意識の私がブレーキをかけている。 「私は本気でルイさんが好き。 でも、その前に私は仕事でルイさんと一緒にいるの。 それで満足しているから」 私がそう言うと、ルイは黙り、 瞳を閉じたまま、表情が消え メイクをしている間 何も言葉を発しなかった。
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