47人が本棚に入れています
本棚に追加
好きなひとの吸う煙草は、煙のかたちさえ愛おしいと、何かで読んだ。
ぼんやりと流れる紫煙を目で追いながら、そんなことを考える。
ひどく冷静な自分に気づいて、やっぱりね、と思った。
あたしは……この男が嫌いだ。
だから煙だって、嫌いだ。
そしてその理由は、ひとつしかない。
「どうして、茉莉を泣かせたんですか?」
親友が男に振られて、それに抗議するため、あたしはここに来た。そんな役割を、いつもあたしは演じている。
窓からは爽やかな午後の風が吹いて、音楽室から誰かの弾くピアノの音を運んできた。窓際の白いカーテンが、ふんわりと揺れる。
その緩やかなメロディがリストの「愛の夢」だと気づいたとき、なんだか皮肉なBGMだなと思ったから、あたしはやっぱり冷静なんだ。
「生徒と恋愛は……しない主義なんだ。岡嶋にもそう言ったよ」
西川先生は、柔らかな笑みを浮かべていた。
「本当に、それだけですか……?」
思わず、あたしの声が尖る。
「本当に?」
先生は、少し不思議そうな顔をした。
「だって先生はまだ普通の大学院生で、怪我をした本多先生の代わりに補習に来てるだけなんでしょう?」
最初のコメントを投稿しよう!