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だから?だから何だ。……あたしはいったいどんな言い訳を探しているんだろう。
「じゃあ、あたし達の先生でいるのは、ほんの一時期だけじゃないですか?……だったら」
「成瀬が……それを言うんだ?」
先生は優しく、あたしの言葉をさえぎる。
「じゃあ俺も、本当のことを言おうか」
先生は煙草の火を消した。
その視線はゆるくあたしを通り過ぎて、窓の、白いカーテンの先を見ていた。
遠くでカキンと音がして、野球部員たちの元気のいい声が聞こえる。
ざわざわとした、色々なものの混ざった声が聞こえる。
あたしの胸の中で、色んなものが混ざる。
沈黙が、苦しい。
先生の、低い声がした。
「好きな人がいるんだ。……もうずっと前から。そして、これから先もね」
あたしは、ごくりと息を飲み込んだ。
わかってた、何となく。こんなことを言われるって。
先生はゆっくりとあたしを見た。
「お前と同じ、叶わぬ恋だよ」
「なっ……!」
思わずかっとして立ち上がったあたしを、先生は静かに見ていた。
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