47人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前も気づいてるはずだ。俺たちは同類。お前は……俺と同じ匂いがする」
あたしは先生を見つめたまま、何も言い返せなかった。
誰にも気づかれていないあたしの気持ち。誰にも気づかれてはいけない、あたしの気持ち。
動揺してはいけない。認めてはいけない。と心の中で、もうひとりの自分が叫ぶ。
先生は、ゆっくりとまた煙草に火をつけた。
煙がゆるく流れる。
「人間は、持っているものを数えた方が幸せなのに」
そう言いながらあたしを見た先生の瞳は、穏やかに、でも冷たく澄んでいる。
「どうして……持っていないものを数えて、不幸になりたがるのかな」
お前も、俺も。……そう言われている気がして、あたしはふらふらと部屋の外に出た。
この人と話していると、部屋の中の濃密な空気に押されて、あたしは叫び出しそうになる。
「愛の夢」はいつの間にか、もう聞こえなくなっていた。
中庭まで戻ってきて大きくひとつ息をすると、茉莉がグラウンドの端のフェンスに寄りかかっているのが見えた。
「茉莉」
最初のコメントを投稿しよう!