第1章

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もっと聞きたいと言われて、どうしていいのかわからず、あの人のするがままにしたままひたすら歌を歌い続ける。 …… 「あの人」とは小さい頃からいつも一緒だった幼馴染み。 ひとつ年上のあの人は、気づくといつもそばにいた。 20年間ずっと。 そして、わたしの声を誉めるのもいつものこと。 彼の職業は世間で言うアーティスト。 孤独に生きてきて、やっと出来た仲間達で結成されたバンドのヴォーカルをしている。 最近は忙しいらしく、昔ほど一緒にはいれないけど、毎日必ず私の顔を見に来る。 朝方に仕事終わりで会いに来れば、私の部屋の窓を静かに叩いて、私が窓を開けて顔を出すと、笑顔だけ残して帰っていく。なにも言わずに。 疲れてるなら、早く帰って寝たらいいのにと思う。 でも彼は私に会うのを今まで一度も欠かしたことがない。 理由は何となくわかるけど本人の口から聞いたこともなければ聞く気もない。 フワッと現れてフッと帰っていく。 そんな掴めない彼の事を一番わかっている私もかなりの曲者なんだろう。
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