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北三陸の、半農半漁の過疎の町。多少は観光業にも力を入れているらしいが、交通の便の悪さも手伝って私が子どもの頃からよくも悪くも変わらない。
「衣替えが6月1日、なんておかしいよね。寒かったら冬服、暑かったら夏服、でいいと思うんだ」
2006年、4月末。
市民公園での「桜まつり」での演奏の準備のために自分のフルートを組み立てながら、私は親友でクラリネットパートの美咲にぼやいた。
「葉月は暑がりで寒がりだものねえ。8月生まれで葉月、なんでしょ」
美咲が笑いながら音を出し、ウォーミングアップを始める。
とはいえ、私は関東より一ヶ月遅れで桜が満開になり、散るとあっという間に初夏になる、この季節が一年で一番好きだ。
リハーサルの時間になった。
私達の音を合わせ、まとめ、指示を出しているのは私達「北三陸高校吹奏楽部」で唯一「西洋音楽を理解できる男」(by毒舌の顧問)、コンサートマスターの昴洋先輩だ。
かつては50人近い部員を誇ったというこの地域最大の部も今は20人を越えるのがやっと。
OBでもある顧問の向井先生によると、文化部合同でやっている演奏会も単独で市民ホールを借りて開催していたし、コンクールも県大会の常連で、二、三年年だけで出ていたとか…。
「もっともその当時は“普通に楽譜通り”音楽として成立してたら代表になれたんだ。音楽のレベルの低さだけは俺が現役の頃と変わらん」
……ふんだ。言ってろ。
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