春の章 桜祭りと星条旗

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町最大の公園…と言っても、私達の足ならぐるり回ってすぐ終わってしまうような高台の公園。 私達のいる臨時ステージの前に、五、六個並ぶ屋台を冷やかしたり遊具で遊んだりしていた親子連れやお年寄りや暇そうな祭りの役員の大人達、部員の家族達…がぱらぱら集まり出す。 秋祭りと並んで、娯楽の少ない町のメインイベントである。午前中のこの時間は過疎の町のイベントには珍しく、大人達よりも部活が休みの中高生や近所の暇な小学生達が多い。 高校に入学して、吹奏楽部に入部して、初めての人前での演奏だ。 高校では私も含め、楽器の経験者も多い。とは言え、中学の部活で短期間にこれだけの曲数を練習して発表する、なんて経験はなかった。 「Sing Sing Sing」「ディズニーメドレー」「大河ドラマのテーマ曲」などをやや緊張しながら演奏していく。 『…最後の曲は、ホルスト作曲“組曲・惑星より快楽の神、木星”。8月に行われる、吹奏楽コンクールの自由曲です。皆様、ぜひとも応援よろしくお願いします』 ホールや学校行事での演奏とちがい、人の出入りのまるきり自由な屋外イベントでの演奏。 琴実先輩ママが、『次の曲は皆様お馴染みの…』『ちびっ子達の大好きな…』などと観客が飽きずに演奏に興味を持つよう、プロならではの曲紹介をしてくれていたのだが、やはり「身内」というか…最後に感極まって、選挙の候補者みたいにとっても力の入った曲紹介になってしまった。
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