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2007年、7月。
私達は二年生になり、追い込みの合宿に入っていた。
合宿と言っても、北リアス線の三つ向こうの駅から徒歩五分くらいの所にある、ログハウス式の公営の「キャンプ村」と隣の体育館を借り切って一日中練習漬けになるだけなんだけど。
昂洋先輩にとっては三年最後の演奏会とコンクール。
特にコンクールは毎年地区代表には選ばれるものの、県大会では何年も銀賞止まり。今年こそは悲願の金賞を勝ち取って、先輩達と東北ブロック大会に進みたい。
昂洋先輩、琴実先輩達…三年生の奏者のレベルも例年より高かったし、人数も多い。曲の仕上がりも、顧問の向井先生は決して誉めない代わりに去年は言われなかったような細かいダメ出しをする。
「このバンドにはそれを克服するだけの力があると思うから言ってるんだ!」
「本気になれ!まだ100%が出せてない!」
「今頃こんなところ合奏でさらうようじゃ、間に合わないぞ!パートリーダーは何やっていた!?」
それはきっとこのバンドが、今までで悲願に一番近いから。
合奏中、何度も何度もノーが出て、「できるまで帰って来るな」とパートごと外に出されたり、泣きながら自分で外に出る部員もいる…真夜中の合奏。
だけど、「県代表」というキラキラした夢が目の前にぶら下がっている限り、根を上げる部員はいなかった。
でも。
「合宿初日から長かったぁ~…1日だけ、って思っても昂洋先輩いないと、余計辛い」
合奏後の後片付けの時間、美咲がため息をついた。
「だね」
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