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「でも、何だかちょっと親近感。」
「?」
透子は嬉しそうに言った。
「要は歩くんも親がいない状態で育ってきたんでしょう?
私も、ここ五年間は親無しで生きてきた。自分しか、自分を守ってくれる人がいなかったのよ。
そういうところ、共通点じゃない?」
「まぁ確かにそう言えなくもないな。俺には最近まで姉さんがいたけど、さっき言った通りアクティブな人だったからほぼ家にはいなかったし。」
実際俺の境遇なんて透子に比べたら大したことはない。
母さんは帰ってこないだけで生きているし、放任主義なだけで酷い母親ではなかった。
姉は姉で自由奔放で家事だってしたことはないが、姉であることを自覚し、常に俺を案じていてくれた。
目の前で家族を殺された透子などとは比べるべくもない。
ただ、透子が俺に親近感を抱き、それが彼女にとって喜ばしいことならば追求する必要もないだろう。
「あなたに助けられてよかったわ。あなたにだからこそ、私は全てを捧げれる。」
透子はとても綺麗な笑みを浮かべて立ち上がると、すっと俺に歩み寄ってきた。
「だからね、歩くん。あなたには、人の身を手に入れる悦びを知ってもらいたいの。」
「それはどういう──」
口を開きかけて、透子の柔らかな細い指に止められる。
「私に任せて。まだ何もわからないあなたに、私が教えてあげるから。」
まただった。
透子の言葉が心に染み込んでくる。
透子の綺麗な瞳が、柔らかそうな唇が、細い腕が、白く綺麗な指先が、控えめだが確かな魅力を孕む胸の膨らみが、身を内側から溶かすような良い香りが。
何より、その透き通るような声が。
透子のあらゆる魅力という魅力全てが俺の心をほぐして抱く。
彼女の言うことなら信じても良い。
そう俺を思わせる。
人の身を手に入れる悦びを。
透子の身を、心を手に入れる悦びを。
知りたくなる。
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