第一章 神宮透子のラプソディ

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すっと透子に手を引かれ、俺はベットに腰を下ろした。 隣に座る透子からは、その柔らかな気配と嗅覚をトロけさせる良い香りが伝わる。 「さあ。」 透子は小さく言うと俺の手を引いてベットに倒れこんだ。 俺の体は透子につられ、彼女に覆いかぶさる形になる。 俺はそっと透子の頬を撫でた。 スベスベと柔らかいそれは、ずっと触れていたいと思う程に心地いい。 透子はくすぐったいかのように目を細めたが、その瞳は俺をまっすぐ見つめていた。 親指が唇に触れた。 潤った唇がわずかに俺の親指を濡らし、そして包む。 触れたものを何でも含む赤子のように、透子は俺の親指を咥えた。 絡みつく舌が、温かくトロトロの唾液が、柔らかな口内が俺の親指を溶かそうとしてくる。 なんとも言えない光景と感覚。 今俺の下で組みしているこの少女の口は、今俺の指のためだけに機能していた。 言葉を発し、酸素を摂取し、栄養を蓄えるために存在する口部は、その本来の役割を全て放棄して俺の親指のためだけに存在していた。 彼女の意識も心もまた、そのこと以外の部分を有してはいなかった。 俺の手が、親指が、神宮透子の口を犯していた。 そこに相手の意思や感情を考慮したものはなく、ただ俺がこのトロける肉欲を味わうためだけに。 ただこれだけのことが俺の感情を支配していた。 この行動には何の意味もない。 生物として、人間として、指で口を犯すことは何の得にもならない行為だ。 なのに、そのはずなのに。 俺に屈服し、されるがままに口を支配されている透子を見ると俺の心の奥の何かが満たされていく。 もっと、もっとだ。 もっと、君の口を知りたい。支配したい。我が物にしたい。 生物としての意義を無視して。 人体の機能を無視して。 彼女の一部であることを無視して。 ただ君の中を俺が蹂躙し、溺れさせ、支配したい、という──── 極めて単純な支配欲。
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