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幼い少女にとって家族は全てだった。
自分の住む家とその周辺数十メートルが彼女の世界であり、彼女の家族の存在が少女を少女たらしめる全てだった。
それは幼い子供には当然のこと。
幼い少女は自分の家族とその周辺しかわからない。
広くて狭い世界のことなんて、その欠片も認識なんて出来ていない。
だから自分の行いが世界にとってどう評されるかなんてその幼い少女にわかるべくもなく。
ただそれは少女にとってとても不思議なことで、そして輝くしく楽しいことだった。
両親もそんな少女をとても褒めてくれたし、とても誇ってくれた。
だから少女にとってそれは良いことだった。
良いことでない筈がない。
少女の世界の全てである両親に認められるということが、良いことでない筈がない。
それは仕方のないことだった。
少女は何も知らなかった。
それが孕む危険性を知らなかった。
それは彼女の両親も気づかなかったこと。
いや、両親の場合は気付かないふりをしていただけかもしれない。
とにかく、少女は無知故の失態を無知故に悟ることができなかった。
それは誰が責められるようなことではなく、単に運が悪かったとしか言いようがない。
そう、ただ運が悪かった。
少女が使ったそれは、認められるものではなかった。
それは異端であり、あってはいけないものだった。
それは侮蔑される対象であり、抹殺される対象だった。
そしてそれは少女自身だけではなく、彼女の世界にも牙を剥くものだった。
少女の世界の全て。
少女の両親さえも、排斥される対象だった。
何も知らない少女は知るべくもない。
そう、何も知らなかった。
何も知らない少女は、何も知らないからこそ目の当たりにしてしまった。
無残な血と肉の散乱。
狂気の笑顔。
死の臭い。
破滅の足音。
残酷な運命を。
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